2024年度旅行トレンドに関するインサイト(訪日旅行専門の旅行会社向け)

訪日旅行を専門とする旅行会社の成長は確実、決済機能の充実が成功の鍵に

訪日旅行者にとって、日本の魅力は旅行や体験の幅広さにあります。1万4,000を超える島々からなるこの太平洋の群島には、現代性溢れる大都市から壮大な自然、精神性を表す神道や仏教から熱烈な盛り上がりを見せるウィンタースポーツまで、誰もが楽しめるアクティビティがそろっています。このような魅力に溢れる日本ですが、訪日観光客の受け入れ再開は、南アジアの国々より1年近く遅れました。この影響で、同国の経済に大きく貢献している観光業の回復は、他の地域に比べると後れを取っています。

それでも国境が再び開かれると、2023年には、日本を訪れる観光客の数は

2019年の統計を(わずかに)上回っています。2023年、日本はミレニアル世代とZ世代の旅行先として人気が最も急速に高まっていると報じられました(出典: Bloomberg)。さらに円が比較的安く、インバウンド観光客にとっては割安感があることも、他国ではなく日本を選ぶ要因となっています。

フライワイヤーは、訪日旅行を専門とする旅行会社100社、オーストラリアやイタリア、南アフリカの300社以上を対象に、これまでの成長と今後の見通し、旅行業界で注目のトレンド(スロートラベルや持続可能性など)に関する意見を募りました。

その結果、訪日旅行を専門とする旅行会社が今後の事業を前向きに捉えており、その実現に向けて意欲的であることが浮き彫りになりました。上記の旅行会社は、社内のプロセスを顧客の期待に沿って改善する余地があります。具体的には、他のどこの国よりも大きな課題となっている、国際決済の合理化です。

弱点である国際決済とデジタルトランスフォーメーションが成長の鍵

訪日旅行を専門とする旅行会社は、他の国の旅行会社に比べ、旅行者からの支払い対応が非常に難しいと感じています。国際的な決済への対応が簡単だと答えた会社は、日本ではわずか61%にとどまった一方、日本以外の旅行会社では90%を超えています。また特筆すべき点は、訪日旅行者の支払い対応が難しいと回答した割合は、日本の旅行会社では他国の旅行会社の約5倍にのぼりました(日本は39%、イタリアは8%、オーストラリアと南アフリカは6%)。

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国際決済対応が難しいと回答した訪日専門の旅行会社の割合は他国の5倍

同時に、自社の決済機能が完全にデジタル化していると考えているという回答はわずか6%でした。ほとんどの会社が「完全に近い」(27%)、「半分程度」(37%)、「着手し始めている」(19%)と回答しています。さらに残りの11%は、「決済機能の変革に着手もしていない」という回答でした。

訪日観光客からの支払い対応が困難であることと、デジタル決済機能の不足の間に関係があるかに関わらず、訪日旅行を専門とする旅行会社は、支払いプロセスがブランド、顧客体験、社内効率に影響を与えることを認識しており、簡素化の必要があると考えています。

日本の旅行会社では、全般的に支払い方法が充実しており、他国の旅行会社よりも幅広く提供しています。60%以上が「即時決済、後払い、グループ支払いや分割払い、自国通貨による決済を顧客に提供している」と回答しています。とはいえ、まだ改善の余地があると考えられており、特に支払いが顧客体験に与える影響は強く意識されています。92%が「支払いが簡単であればあるほど、顧客の満足度は高まる」と回答し、77%が「自国通貨での支払いを簡単に承認できれば、ゲストの満足度は高まる」と回答しています。

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92%が「支払いが簡単であるほど、顧客の満足度は高まる」と回答。

決済のデジタルトランスフォーメーションは、訪日旅行を専門とする旅行会社の支払いプロセスを簡素化し、顧客体験を向上させるでしょう。セキュリティ上の懸念(49%)、希望するクレジットカードが使えない(47%)、現地通貨で支払えない(46%)など、特に多く挙げられた問題点はデジタル決済機能で対応できると考えられます。

また、訪日旅行を専門とする旅行会社の多くは、決済機能の改善が業務上のメリットにつながると考えており、80%以上が資金と時間の節約になるだろうと回答しています。特筆すべき点は、「顧客の国の通貨で支払いに対応する際に、現在よりも良い支払い方法を取り入れると事業の成長につながる」と考えている会社は82%にのぼることです。ただし、これは決済機能の側面のひとつにすぎません。

ほとんどの旅行会社は、提携先への支払いに関しても問題を抱えています。提携先企業、ベンダー、エージェントに手数料を支払う場合により最適な支払い方法を求めている企業は、82%にのぼります。

着実に回復、著しく成長するチャンス

「2年前と比較して予約が増加した」と回答した訪日旅行専門の会社は少ない傾向にあります。全旅行会社の中では7社に1社が「予約は増加した」と回答した一方、訪日旅行専門の会社は3社に1社にとどまり、22%が「予約件数は2年前と変わらない」と回答しました。日本の観光関連産業の回復が遅れている理由として、2022年10月から訪日観光客の受け入れが再開し、パンデミック前に最も多かった韓国、台湾、中国の観光客に対しては上記と同時期か、遅れて受け入れを再開したことが挙げられます。

しかし、訪日旅行専門の会社は慎重ながらも今後の成長に期待を寄せています。94%が「今後5年間で事業が成長する」と回答し、さらに半数近く(46%)が「5%~11%の成長が見込まれる」、3分の1(34%)が「11%~20%の成長が見込まれる」と回答しました。

訪日旅行専門の会社は、ジャンルに関わらず様々な旅行に対するニーズが増加傾向にあると捉えていました。このことから、訪日旅行客にとって、日本は幅広い魅力に溢れる国であることがうかがえます。旅行会社の3分の1近くが、親子での旅行とともに一人旅も増え、約4分の1はその他の旅行も増加したと回答しています。

  • 多世代旅行
  • (家族や友人同士の)グループでの旅行
  • 親戚や複数のカップルでの旅行

より豊かで充実した体験型スロートラベルの需要の高まり

訪日旅行を専門とする旅行会社の84%が、「体験型旅行に対する消費者の需要が高まっている」と回答しています。さらに、日本でしか味わえない数多くの貴重な体験が、観光客を惹きつけています。日本は、北は亜寒帯から南は亜熱帯の気候まで、北海道、本州、四国、九州、沖縄の本島にわたって豊かな体験を楽しめる国です。

もちろん、初めて日本を訪れる観光客のほとんどは、日本の華やかな都市部を訪れたいと考えています。しかし、あまり知られていない地方の旅行先に足を踏み入れることにより、興味をかき立てる、他では味わえない本格的な体験を楽しむことができるほか、芸術、伝統工芸、料理、文化、信仰などに触れることができるため、重な思い出となります。

スロートラベルは、現在注目されている体験型旅行と共通しており、地域社会、現地の人々や文化とつながることを重視します。空港に到着して急ぎ足で定番の観光スポットを回り、すぐにその場を後にする旅行とは異なります。スロートラベルはその名の通り、旅程を詰め込みすぎず、ゆっくりと時間をかけて観光します。現地の生態系や環境に配慮しながら旅行先を体験するスロートラベルは、持続可能性を高め、その国と現地の人々への敬意を育むものです。

スロートラベルは、日本で人気を博しています。旅行会社の47%が「スロートラベルの需要が増加している」、さらに39%が「これまでと同水準の需要がある」と回答しています。さらに10社中8社が、この需要の高まりは今後も続くと考えています。

持続可能性は事業面にも良い影響、さらに取り組む余地あり

スロートラベルの主な目的は、旅行先の環境への影響を抑えることです。この旅行スタイルが普及することで、環境に対する意識が高まり、環境に配慮した行動を取る消費者が増加しています。実際、訪日旅行を専門とする旅行会社の78%が、ここ数年で持続可能性に配慮した内容を旅行プランに求める顧客が増えていると回答しています。

スロートラベルにふさわしい長距離移動手段は、鉄道です。鉄道を利用すると、他の交通手段よりも環境負荷を抑えることもできます。日本の鉄道は、長距離と短距離移動の両方に適しているうえ、速く、ダイヤが豊富で、費用対効果の高いことが特徴です。新幹線、在来線、地下鉄、登山鉄道、観光列車など、鉄道は旅行者にとって最も利用しやすく、日本のさまざまな側面を見ることができる交通手段です。列車を利用することで、二酸化炭素排出量に配慮しつつ、島、都市、農村部を簡単に移動でき、レンタカーや飛行機の利用回数も減らすことができます。

日本が有する大自然は、エコツーリズムにも適しています。ハイキング、カヌー、サイクリング、ダイビング、シュノーケリング、国立公園を訪れて日本独自の野生生物を観察するほか、寺院、神社、城、温泉を巡るなど、楽しく環境に優しいさまざまなアクティビティがあります。

訪日旅行を専門とする旅行会社の90%は、「サステナビリティに重点を置いたポリシーや商品を導入している」と回答しています。とはいえ、「多数導入した」と答えた会社はわずか13%にとどまりました。52%が「ある程度導入した」、25%が「わずかしか導入していない」と回答しています。上記の企業は、サステナビリティに関して改善の余地があることを認めており、84%が「旅行業界は持続可能性を高めるためにもっと努力する必要がある」と回答しています。持続可能性を高めるだけでは十分なメリットにならない場合でも、事業面で利益があれば価値があると言えます。日本の旅行会社の80%が、「観光客の旅行計画では持続可能性であることがますます重要になっている」と回答しています。

柔軟な働き方に対応する宿泊施設が訪日旅行客を惹きつける

日本の労働文化は伝統的かつ保守的であり、オフィス勤務を非常に重視していることで知られています。欧州、中東、アフリカ地域や南北アメリカの国々ほど、リモートワークが普及していない点も驚くことではありません。それにもかかわらず、訪日旅行を専門とする旅行会社は、従来とは異なる働き方をする旅行者に対応することで利益が得られることを把握しています。実際に、訪日旅行専門会社のうち79%が、リモートワーク施設を希望する顧客の増加を目の当たりにしています。それに対応して半数以上の会社(54%)が、リモートワークや週4日勤務に合わせて旅行パッケージの提供方法を変更しており、今後変更を予定している会社も同程度の割合にのぼります。

「週4日勤務や柔軟な働き方が、旅行者の行動にどのような影響を与えるか」という質問に対しては、45%が「事前に計画を細かく立てるようになる」と回答し、42%が「家族旅行がさらに増加する」と回答しました。3分の1以上の会社は「一人旅や周遊旅行が増加する」と答えています。柔軟な働き方をする顧客向けのパッケージを提供することで、事業の成長にプラスの影響を与えると考えられます。

AIが業務の時間短縮に大きく貢献

他国の旅行会社に比べ、日本の旅行会社は、人工知能(AI)やChatGPTが旅行業界に打撃を与えると回答している割合が高くなっています。(35%、一方イタリア15%、オーストラリア6%、南アフリカ5%)。とはいえ、多くの会社(60%)が良い影響を受けると考えています。84%は、ニーズに沿った顧客対応とのバランスが取れる限り、AIとChatGPTは旅行業界に間違いなく貢献するだろうと述べています。

日本の旅行会社の10社中8社が「旅行業界の企業はAIを効果的に活用し始めている」と考えており、さらに「AIは今後数年間で旅行業界の提携先企業やベンダーとの関わり方に影響を与える」と回答しました。

日本の旅行会社は「AIがサービス対応において時間のかかる業務に最も効果をもたらす」と考えているほか、3分の1の企業が「AIは旅行前の下調べ、旅程計画、スケジュール設定のすべてに大きく貢献するだろう」と回答しています。重要な点は、AIを効果的に活用できれば、スタッフはより顧客に寄り添ったサービス提供に集中する時間を確保できるということです。実際、旅行会社の約3分の1近くが、AIが与える最も大きな影響として、顧客一人ひとりに合わせたサービス提供の質の向上を挙げています。

日本の旅行会社の現状や展望は、全体として明るいでしょう。人気の旅行トレンドを活かす態勢を整えており、ほとんどの会社では成長が見込まれています。さらに、国際決済の問題を解決できれば、その成長は一気に加速するでしょう。